鉄道や自動車などに代表される工業製品には、多品種の鉄鋼が使用されています。
工作機械で加工する際には素材の特徴をよく理解し、最適な材料を選ぶことが重要です。
そこで今回は、機械加工で使用する鉄鋼素材の種類についてご紹介します。
目次
材料の全体像
まず初めに工作機械で使用する材料の全体像を以下の表で解説します。
金属素材の他に、非金属素材、特殊素材といった種類の材料が存在します。
加工素材 | 金属素材 | 鉄鋼素材 | 炭素鋼 合金鋼 鋳鉄 |
非鉄金属素材 | アルミニウム 銅 チタン マグネシウム など | ||
非金属素材 | プラスチック セラミックス ゴム ガラス など | ||
特殊素材 | 機能素材 複合素材 |
次項で上記の各素材について解説していきます。
鉄鋼とは
鉄鋼は鉄を主成分とした材料の総称として使われますが、正確には鉄と炭素(2%以下)の素材を鉄鋼といいます。
鉄鋼素材の鉄に加える成分は、炭素(C)が主成分で、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)が補助的な役割で入っており、この5元素を鉄鋼の五大元素といいます。鉄鋼素材はこの五大元素が成分のほとんどを占めております。
世界中で使用されている金属材料のうち、重量換算だと95%以上で鉄鋼が使われていて種類も豊富にあります。鉄鋼素材の種類は次の通りです。
炭素鋼
鉄と炭素の合金で炭素を含む量が0.02%~2%までの鉄鋼素材を炭素鋼といいます。
主成分は鉄と炭素ですが、他にケイ素・マンガン・不純物リン・硫黄・銅を含みます。
炭素鋼の中にもJIS規格で品種が細かく分類されており、炭素含有量によって品種が決定します。
炭素含有量 | JISの呼称 | 日本語名称 |
~0.1% | SPC材 | 冷間圧延鋼板 |
0.1~0.3% | SS材 | 一般構造用圧延鋼材 |
0.1~0.6% | S-C材 | 機械構造用炭素鋼鋼材 |
0.6~1.5% | SK材 | 炭素工具鋼鋼材 |
2.1~4% | FC材 | ねずみ鋳鉄品 |
SPC材
冷間圧延鋼板のSPC材は0.4~3.2mmの薄板で、主に板金機械のプレス加工や曲げ加工で使用されます。丸棒や角棒の形状はなく、冷蔵庫のボディに使用されるような薄い板材です。
SPCは、Steel Plate Coldの略字で、材料としてはSPCC、SPCD、SPCEがあります。
スチール板 SPCC
SPCCは一般用、SPCDは絞り用、SPCEは深絞り用にプレス加工がしやすい材質となっています。
SS材
一般構造用圧延鋼材のSS材は、安価で汎用性のある最も普及している鉄鋼素材です。
SSはSteel Structure(構造用鋼)の略字で、丸棒・角棒・鋼板・型鋼など様々な形状が豊富にあります。SSの後に3桁の数字がつきますが、この数字は引っ張り強さの最低保証値を示しています。
加工素材として頻繁に使われるSS400で例えると、引っ張り強さは400~510N/mm2となり、最小値の400がSSの後についています。
JIS規格ではSS330、SS400、SS490、SS540があり、実務でよく使われるのはSS400です。
SS400 丸棒(磨き)
炭素量が0.2%と少ないので、焼入れは不可能です。焼入れが必要な場合は炭素量3%以上の素材を選定します。次に説明するS-C材を選定するといいです。
S-C材
機械構造用炭素鋼鋼材のS-C材は、SS材に次いで普及している鉄鋼素材です。
S-C材は、S(Steel)とC(Carbon)の略字で、SとCの間に2桁の数字が入ります。この数字は炭素量x100を示すもので、例えばS45Cだと炭素量が0.45%という意味になります。
S45C 研磨角棒
炭素量が3%以上の素材については焼入れの効果があります。炭素量が多ければ多いほど、焼入れ後の耐摩耗性や引張強さ、疲労強度などの強度を向上させることができます。
SK材
炭素工具鋼鋼材のSK材は、炭素含有量0.6~1.5%の鉄鋼素材で鋼の中で炭素量が最も多い素材です。硬さと耐摩耗性に優れた素材で、焼入れすると硬さは0.6%程度で頭打ちになりますが、摩耗については炭素量が多ければ多いほど強くなる性質があります。
SK材は、S(Steel)とK(Kougu)の略字で、SとKの後に2桁の数字が入ります。この数字は炭素含有比率の100倍を表してます。(SK95だと0.95%の炭素含有量)
SK95
合金鋼
鉄鋼素材の五大元素に加え、ほかの金属元素を添加したものが合金鋼です。
合金鋼で使われる元素としては、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルト(Co)などがあります。
合金鋼は炭素鋼よりも元素が多くなるので鉄鋼よりも高価になり、形状も種類が少ないことから、炭素鋼では要件を満たさない場合に限り使用します。
合金鋼の主な種類は次の通りです。
ステンレス鋼
ステンレスはStainlessのことで、汚れ・サビが少ないという意味です。
ステンレス鋼は、合金鋼の中でもよく使われる素材でSUS材とも呼ばれ、五大元素にニッケル(Ni)とクロム(Cr)を加えた合金鋼です。
品名ではSUSの後に3桁の数字が入り、クロムとニッケルの含有量によって3種類に分かれます。それぞれの特徴は次の表のとおりです。
分類 | 代表品種 | 成分 | 磁性 | 耐蝕性 | 価格 |
18-8系 | SUS304 | Cr18% Ni8% | 弱 | 高 | 高 |
18Cr系 | SUS430 | Cr18% Ni0% | 強 | 中 | 中 |
13Cr系 | SUS410 | Cr13% Ni0% | 強 | 低 | 低 |
SUS430 ステンレス板
合金工具鋼
硬い素材が要求される工具素材として炭素工具鋼鋼材(SK材)がありますが、硬さや耐摩耗性の要求を満たさない場合は合金工具鋼が使われます。
合金工具鋼には、SKS材・SKD材・SKT材という品種があり、鉄の五大元素に加えてクロム、タングステン、バナジウムといった元素を添加して硬さ、耐摩耗性、耐熱性を向上させています。
機械構造用合金鋼
機械構造の部品で使用されるような鉄鋼素材では炭素鋼と合金鋼がありますが、より強度と靭性が求められる場合には、合金鋼を選択します。
炭素鋼と合金鋼の一番の違いは、焼入れがしやすい材質であることです。素材の中心部まで焼きが入ることで機械的性質に炭素鋼よりも優れています。
材料記号は、Sの後に主要な合金元素記号が付きます。各品種に含まれる化学成分は次の通りです。
分類 | 成分 | |||
Cr | Mn | Ni | Mo | |
SCr | 0.9~1.2% | 0.6~0.85% | – | – |
SCM | 0.9~1.2% | 0.3~1% | – | 0.15~0.3% |
SNC | 0.2~0.5% | 0.35~0.8% | 2~2.5% | – |
超硬合金
超硬合金とは、名称の通り極めて高い硬度を持つ合金鋼です。
クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)といった素材に鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)で結合した合金鋼です。
使用例として、先端の刃先が交換できるタイプ(スローアウェイ)の旋盤用工具のチップで使用されます。
スローアウェイバイト用のチップ
ハイテン鋼
ハイテン鋼は高張力鋼ともいい、引っ張りの強さが非常に強い特徴があります。
汎用的な炭素鋼SS400の引っ張り強さは最低400N/mm2ですが、ハイテン鋼ではその倍以上の引っ張り強度があります。
薄くて丈夫なため、電車のボディやガスタンク、側溝の排水蓋などに使われています。
まとめ
今回は金属素材でも世界で最も使用されている鉄鋼についてご紹介しました。
鉄鋼は自動車や電車をはじめ、ほとんどの工業・産業製品に必要な素材で、いまでは我々の生活に欠かせないものとなっています。
実際に素材を選定する際は、硬さや摩耗性などを十分考慮し、完成品の設計要件に耐えうる素材かどうか見極めることが重要です。
次回は非鉄金属素材について、ご紹介したいと思います。